警視庁の庁舎上階。「闇の警視総監」とも言われる暗闇警視の部屋に、警察の上層部、それもトップクラスのエリートたち十数人が、秘密裏に集まって来ていた。
部屋に臨時に設置された会議机に、一人また一人と来た順に着いていく。それぞれ今日の招集に疑問を持ちながらも、久しぶり、この前はどうも、といった談笑が交わされていた。
「遅くなりました。ちょっと他所へ出てまして。そうしたら渋滞に巻き込まれてしまって、ハハ…」
最後の一人が席に着き、出席者全員が揃った。
「諸君。今日は急な呼び出しにもかかわらず、忙しいところを集まっていただき、誠に有り難う」
それまで沈黙を保っていた暗闇警視は、自分のデスクから立ち上がって、出席者に挨拶をした。
「早速だが、今日、集まってもらったのは……」
この会合の主旨を話し出す暗闇警視。一語一語、言葉が連なり意味を成してくると、出席者の表情は強ばり、話が終わった途端、室内は騒然となった。
「これは、これは。面白い冗談をおっしゃる」
「全くだ！ そんな冗談のために、わざわざ我々を集めたとは、正気の沙汰とは思えませんな！」
外ならぬ暗闇警視の要請に、彼らは人気タレント並のスケジュールを四苦八苦して調整し、やって来た。それなのに、今聞かされた話とは……？
「いくら非公式と言っても、すぐにバレて、世間から非難囂々だ。目に見えている」
「同感。そうなった場合、槍玉に挙がるのは、我々ですからな！」
エリートたちは口々に反論したが、暗闇警視は、それらを無視して、デスクの一番上の引き出しの鍵を開け、小冊子を各人に渡した。
「バカな！ 一体あなたは、何を考えて！」
一人が怒鳴り声を上げた。ふるふる……と震える手から落ちた、朱文字で「ＴＯＰ‐ＳＥＣＲＥＴ」と記されているその小冊子には、先程、暗闇警視の口から発せられた「学生刑事」についての詳細と、候補者のリストが載っていた。
学生刑事。読んで字のごとし。学生に刑事の権限を与え、学校内で起きた事件を捜査させよう、というものだった。
学生だけで構成される、学校という異質社会に、同じ学生が潜入する事で、大人社会の警察が介入した時のような反発を受けずに、敏速に事件解決に向かわせる。それが暗闇警視の狙いだった。
しかし、彼らが今驚き、怒っているのは、学生刑事の理念ではなく、その候補者にだった。
三名の候補者の内の一人は、現在「地獄城」とも呼ばれている「第二高等少年院」に収容されている。つまりは問題児だ。
「仮に学生刑事が実現したとしても、こんな娘に任せたら、警察の破滅だ！」
「さて、それはどうかな？ 私としては、その娘を一番に押しているがね」
室内は一層ざわめいた。発案者の暗闇警視が一番に押しているとなると、人選は決まったようなもの。
「答えを聞きたい。イエスかノーか」
暗闇警視は、即断を要求した。
「言うまでもない。ノーだ。あなたを除く、我々全員は反対する。この娘だけではない。学生刑事そのものに対して、反対だ」
「そういうことで、残念ながら廃案ですな」
全員が席を立とうとした。
「待ちたまえ」
ニヤリ。不適な笑い。暗闇警視は、デスクの上に置いてあった封筒から、一枚の紙を出し、出席者に向けて広げて見せた。
「既に長官の了承は得ている。後は君たちが首を縦に振ってくれれば、それで良いんだ」
警察庁長官のサインの入った、学生刑事機構の設立許可証。それを見せられては……！
「要するに、我々には『事後承諾』という……」
「そういうことだ」
バシッ。一人が、手に持っていた資料を会議机に叩きつけた。
「もしもの場合は？ それまでして強行されるなら、それなりの覚悟があるんでしょうな」
「その心配はないと確信している。それに、こちらの意図を理解し、時には捜査のサポートもしてくれる後見人を置き、常に監視させるつもりだ。人材は確保してある。そして万が一の場合、私が総て責任を持つ」
「当然ですな」
冷淡な一言を最後に、出席者は離散した。
同時に、学生刑事機構がスタートした。
＜終わり＞
「TOP SECRET」あとがき
初出：同人誌（合同誌）「Red Destiny」
ほんの少し増補した、ほぼ初出と同じWEB版。手荒な操作方法は別として(^_^;) サキの活躍は予想以上で警察上層部も満足していると「無法の街」編に出てきます。いくら暗闇警視の力が強かったとはいえ、学生刑事機構をスタートさせるに当たっては、反発も大きかったんじゃないかなぁ、と想い考えついた話です。