そうだったらいいのにな Episode 18「ジェラシー」
※エロティックな表現を含んでいます※
電話を受けたサキは、相手と二言、三言、言葉を交わすと、送話口を手で押さえて後ろを振り返った。
「ムウ＝ミサからだけど、ちょっと話したいって」
ソファに座って夕刊に目を通していた恭一郎は、読みかけで広げたままの新聞をバサッとテーブルに置くと、予期せぬ指名を不信に思いながら腰を上げ、サキの傍らに赴き受話器を受け取った。
「替わったぞ。俺に何か用か？」
《明日一日、サキを貸して欲しい。もちろん只で、とは言わない。時給千…いや、二千円でどうだ？》
ムウ＝ミサの話を聞いた途端、恭一郎の顔は険しくなった。
「言っている意味が分からないな。サキの体のことを知っていて、何をさせるつもりだ。第一、貸すとか貸さないとか、サキは物じゃないし、人材派遣もやってない！」
最後の方は怒鳴り声に近かった。横で様子を見ていたサキは、なだめるようにトントンと恭一郎の背中を軽く叩いた。
《行き先はウォルターランド。遊園地でデートしたいだけさ。俺がサキに、特に『今のサキ』に、危ないことさせるわけないだろう。サキはOKしてくれたんだ。だから…》
恭一郎は保留ボタンを押し、横のサキを見た。眉間にしわを寄せて。
「OKしたって？」
「困ってるんだって。どうしても断れない用事で、それも女性同伴でないと都合悪いらしいの。明日は予定もないし、だめ？」
「だからといって何故、お前をアテにするんだ？ 他に女がいないのか！ お前もだぞ。人助けも良いが、自分の体のことも考えろよ」
腹部が迫り出し、一目で妊婦と分かるサキの体。他人には過保護と思われそうだが、初めての妊娠にサキ本人よりも恭一郎の方が何倍も気を遣っている。
「まだ中期で安定期だし、絶対に無理しないから、ね？」
「……分かった」
渋々と恭一郎は承諾し、小さな溜息を一つ。受話器を持ち直して、保留を解除した。
《おいっ！ いきなり保留にするなよ！ こっちが話している最中に。だから俺としては……》
「分かった、明日の外出、認めよう。ただし、無理をさせない。少しでも気分が悪くなったら、体調に変化があったら、何をしていても途中で切り上げ、すぐに帰ってくること！ 門限は六時だ」
許可する代わりに、条件を告げる恭一郎。
《おいおい、六時はキツイぞ。ウォルターランドまでの距離も考慮してくれ。出来ればディナーも、と思っているんだから》
恭一郎が譲歩して、門限を八時に繰り下げることで、サキの“貸し出し”に決着が付いた。
翌朝九時に、玄関まで迎えに来たムウ＝ミサの車で、サキは出掛けて行った。自分の妻が、自分ではない違う男と楽しそうに出掛ける様子を、恭一郎はモヤモヤした気分で見送った。
サキのいない一日、何をしようかと考えるが、モヤモヤ気分が邪魔をして、何もやる気が起きない。それでも、あれこれと始めてみたがどれにも集中できず、結局一日、ただボーッとしていただけだった。
夕食も予定通り、予約したレストランで食べてくるとの連絡が入り、恭一郎は独り寂しく、冷蔵庫に入っている有り合わせの物で済ませた。スガは昨日から沼の家へ出張している。夫婦で風邪に倒れ、娘“まりあ”の世話を頼まれたからだ。
門限の八時には、いくらか早い七時四十分頃、二人は帰ってきた。
「確かに送り届けたからな」
恭一郎に抱きつくサキを見届けて、ムウ＝ミサは恭一郎にウォルターランドの紙袋を渡すと、さっさと引き揚げていった。
「疲れただろう？」
「んー、思ったほど疲れなかった。ミサも気を遣って、度々休ませてくれたから。休憩時間の方が多かったくらい」
よっこらしょっとソファに座ったサキは、恭一郎に持ってもらっていたウォルターランドの紙袋を受け取る。中からは、ぬいぐるみやハンドタオルやクッキーなどの土産物が出てきた。自分用もスガや美鈴たち用も、ごっちゃに入れられていたので、テーブルに出しながら仕分けしていくサキ。
「はい、ネクタイピン」
サキは恭一郎に、ニッキームースの顔が形取られたネクタイピンを渡した。これが恭一郎への土産だという。すっかりサキはウォルターランドに魅了されてしまったようだが、その上機嫌な笑顔を見て、恭一郎は心のモヤモヤが晴れたし、行かせて良かったと思った。
「ところで、向こうで何があったんだ？ 女性同伴の断れない用事って」
「ごめん、秘密。約束したんだ。恭一郎にも誰にも話さないって」
サキの、その一言を聞いて、恭一郎は怒りが込み上げてきた！ 人様の、それも身重の妻を引っ張り出しておいて、それはないだろう。本来ならムウ＝ミサ自身から、簡単な報告があっても良いはず。いや、報告する義務があるはずなのに！
恭一郎は何とか聞き出そうとするが、約束は約束だから、とサキも突っぱねる。何度か押し問答をしたが、話は平行線に終わり、疎外感を持った恭一郎の心に再び、モヤモヤした気分が立ち込めた。
「……風呂に入ろう…」
そう言って部屋を出ていった恭一郎の顔は、明らかにムスッとした、不機嫌な表情をしていた。
ベッドの中に入ってもモヤモヤは消えず、振り払おうと思えば思うほど、無限に増殖していく。無意識に恭一郎は、サキの体をまさぐり始めた。
「欲しい…サキ。欲しい……」
呪文のように繰り返し、サキの、パジャマのズボンの中へ左手を滑り込ませた。
「嫌……、そんな気分じゃない、疲れてるんだから」
サキは体をくねらせて抵抗するが、恭一郎は手を休めなかった。ズボンに入った左手は、サキの黒い茂みを分け入り、片方の右手はパジャマのボタンを全開させ、あらわになったサキの左の乳房を揉む。唇は右の乳首に吸い付いていた。
「嫌、やめて……。ねえ、どうしたの？ 変だよ、今日……」
抵抗するサキを無視して、恭一郎の愛撫は続けられた。荒々しい息遣いが、更に荒くなっていき、恭一郎の止められない欲情は益々エスカレートしていく。唇は乳首を離れ、下へ下へと移動し、黒い茂みの奥の、ピンクの花唇まで来ていた。唇と舌で、サキの花唇を愛撫する。
「嫌だってば、やめて……、ねえ、お願いだから、やめ……」
サキは抵抗し続けながら、原因を探っていた。いつもの恭一郎と違う。嫌だと言っても、こんなに激しく求めてくるのには、きっと何か原因があるはず。
考えられるのは、ムウ＝ミサと出掛けたこと。約束だからと、黙秘権を行使したことくらい。
「もしかして……、今日のことで『やきもち』やいてる……の？」
愛撫は中断されて、同時に恭一郎は金縛りにあったかのように、体が硬直していた。
「ごめん、悪かった。寝よう……」
図星だった。サキに言われるまで、恭一郎自身も気付かなかった。モヤモヤ気分は“やきもち”だったのだ。サキに背を向けて布団にうずくまる恭一郎の顔は、赤かった。
まさかと思ったことが当たっていて、サキは呆れるが、それ以上に、こんなに愛されているという実感から、そんな恭一郎を愛しく感じた。そして、そう思える自分もまた、こんなに恭一郎のことを愛してる。
「あたしは、ここにいる。ずっと、ずっと、恭一郎、あなたの横にいる。いくらムウ＝ミサがしゃしゃり出てきたって、あたしの心が変わるわけないのは、あなた自身が一番よく知っているはずだよ」
サキは恭一郎の背中をツンツンと、つついた。
つつかれた恭一郎は、サキの方に向き直って、サキを抱きしめた。おなかの出っ張りに気をつけて、ギュッと強く抱きしめた。
「……欲しい？」
恭一郎の首に両手を回し、目を細め、口元に僅かな笑みを浮かべて、悪戯っぽく“誘う”サキは、大人の女に変身していた。テーブルに土産物を並べていた時の、あのあどけない少女のような顔とは全然違う、艶やかな大人の女としての顔。
「欲しい。いつだって、おまえが欲しい」
その言葉を受けて、サキは恭一郎にキスした。再び、恭一郎の息遣いは荒くなった。萎えていたシンボルも瞬く間に復活した。
サキも息を荒げた。茂みの奥の花唇は、次第に蜜を溢れさせていった。
「あ…、ん……、入れて……」
サキの漏らした合図に、恭一郎は、硬く、そそり勃ったシンボルを、蜜溢れるサキの花唇の奥深くに収めた。
久しぶりの感触。サキの体を気遣うあまり、自然と抑制していた恭一郎の“男の性”が今夜は発動された。
本能の赴くまま、恭一郎は激しく腰を動かす。それに合わせて、サキも快感の声を上げた。時に甘く、時に強く、時に淫らに……。
仰向けで少し苦しくもあったが、サキは“女の性”を優先させた。
「サキ、おまえだけだ……。こんな俺を見るのは、見て良いのは……」
「あたしも……。こんな、あたしを見て良いのは、あなただけ……、恭一郎、あなただけ……」
頬を紅潮させ喘ぐサキの姿は、恭一郎をより一層、興奮させる。舌を絡ませてのディープキス。はぁ、はぁ、息遣いは益々荒くなり、二人の心臓は早鐘のビートを打つ。結合部分はサキの愛液で、恭一郎が動くたびに卑猥な音を立てていた。
（あいつは知らない。こんな乱れた、少女でない『女』のサキを、あいつは知らない！ 俺だけだ！）
心のモヤモヤ、やきもちは、ムウ＝ミサに対する自慢と自信に変わっていった。
「ああ、サキ……、愛している……、愛して……」
「愛してる、恭一郎……」
繰り返し交わされる、愛の言葉。ベッドの軋む音。
「だめだ、我慢できない。いいか？」
「ん…、良いよ……」
二人は同時に、絶頂の瞬間を迎えた……。
＜ジェラシー ＥＮＤ＞