雪が降っていた。その日は例年にない大雪で、積もるだけの人淋しいビルの屋上は、それほど待たずに銀世界に染まっていった。
そして、そこにサキがいた。屋上の柵に腕を載せ寄りかかり、背中を小さく丸め、それでも顔だけは上げて、遠くに見えるビルの群れを眺めていた。
雪は降り続き、払おうとしないサキの頭や肩や、丸めた背中を白く覆い隠そうとしていた。いつもの服装、ノースリーブシャツにジーパン。いくら寒さに強いと言っても雪が積もるほどの外気。サキの身体は凍えていた。同時に精神も凍えていた。しかしサキは身動き一つしないで、静かに時が過ぎるのを待っていた。
やがて神が来た。何も言わず、雪から守るように、神はサキの隣に立った。サキも無言のまま、少しだけ身体を神の側に寄せた。雪だけが積もっていく。神の頭や肩にも積もっていく。
無言が全てを物語っていた。サキが切なそうな瞳で神を見上げ、見つめた。それに応えるかのように神はサキの頭や肩に積もった雪を払い落とし、サキを抱き寄せた。凍えきったサキの身体を温めるように、すっぽりと自分の胸と腕に抱き包んだ。暖かい広い胸。神の温もりにサキの身体も精神も、ゆっくりと暖まっていく。
抱き合う２人の唇が重なった。紫がかっていたサキの冷たい唇は、神によって赤みを取り戻した。サキは唇を離し、小さく言葉を漏らした。小さな小さな声。神にだけ届いた声。それを聞いて神は再びサキを強く抱きしめた。
雪は小降りになってきていた。静かに並んで、屋上を後にする２人。サクッサクッ、と雪を踏みしめる音だけが響いていた。
＜終わり＞
「雪の日に」あとがき
WEB初出。夢に見た風景から出来上がった話……って程でもないですね。この前後のこと、ストーリー、何もない、これだけです。