Fanfic.】本命だからこそ…？

　深夜の南青山を、かなりのスピードで飛ばしている一台の車。神恭一郎のポルシェだった。助手席には、熟睡…というより泥酔したサキが乗っていた。高峰警視に屈辱を強いられたサキは、ヤケ酒を飲んで酔い潰れ、何故か、神に助けられたのだった。
　大通りからタイヤを鳴らして横道へ曲がり、事務所へ帰って来た。まだ、明かりがついている。車庫のシャッターは開いていたが、入れようとはせず、階段の前に横付けしたままエンジンを切り、キーを抜いた。
　横を見る。少々荒っぽかった運転にもかかわらず、目を覚まさずに、眠り続けている。
「サキ、起きろ…と言っても、無理か」
　助手席側へ回って、サキを抱き降ろし、そのまま抱いて階段を登って行く。

　車の音がした。停まった。階段を登る音。間違いない。自動ドアの開く音と同時に、待ち構えていた美尾とスガは声を揃えて言った。
「先生！　一体、今、何時だ…と……」
　威勢よく神を叱ろうとした二人は、予想もしなかった「姿」に呆然とし、次の言葉を見失った。
「おい、そんな大声出したら、御近所に迷惑だぞ」
　サキを抱いたまま、神は少し声を低くして言った。
「迷惑って、先生！　いくらサキさんと御一緒だったからって、連絡の一つくらい入れて下さっても、よろしいんじゃありません？」
「そうですよ！　昼過ぎに、いつの間にか出掛けられて、メモも何も無いし、心配したんですよ！」
　美尾もスガも、気を取り直して、次々に神に攻撃をかける。特にスガは「ヤキモチ」も絡んでいるから、怖い。神は、その間、ずっとサキを抱いて立っていた。一息ついたところで、やっとサキの話題になった。
「サキさん、どうかされたんですか？」
「酔い潰れて、眠ってしまった。私の部屋へ運ぶから、後は頼む」
「えっ？　後は頼むって、先生！」
　美尾やスガの都合も聞かず、神は自室へサキを運ぶと、そーっとベッドに寝かせた。
「フゥ。重かった。さすがに、抱いて階段を登るのは、キツイな」
　サキが起きていたら、平手打ちは確実！　のセリフをポツリと漏らし、部屋を出ようとしたところで、あわてて後を追って来た美尾とスガにぶつかりそうになる。
「私は、ソファで寝るから」
　神は、美尾の左肩をポンと叩いて、出て行った。

「どうしましょう？」
　ベッドの横で、互いに顔を見合わせる、美尾とスガ。
「えーっと…。とにかく、ベッドに寝かせてあるんだから……そう。まず、靴を脱がせて…」
「服も、やっぱり、脱がせた方が、良いんでしょうねぇ？」
　二人は手分けして、作業（？）に取り掛かった。
「わぁお★　サキさんって、見た目以上に『ふくよか』なんですね。バスト」
「ホントねぇ。それに、ほら。かわいい『うさぎパンツ』▼　やっぱり、女の子ね。あっと、これは、先生には内緒ね」
「そうですね。サキさんの『貞操』が、危ないですからね」
　手と同様かそれ以上に口も動かし、美尾とスガはサキから服を脱がしていく。あちこち体を触られ引っ張られて服を脱がされていくサキ本人は、眠りっぱなしの「眠り姫」だった。

　ソファに横になっているが、パッチリ目を開けている神に、美尾は声を掛けた。
「コーヒー、お持ちしましょうか？」
「あぁ…いや、止めておこう。余計、眠れなくなる。…サキは？」
「ぐっすり、お休みになったままで」
「そうか…」
　神は体を起こし、テーブルの煙草に手を延ばす。
「何が有ったか知りませんけど、先生が付いていながら、あんなになるまで飲ませるなんて。保護者失格ですよ」
　美尾は「二人は、ずっと一緒だった」と思っている。
「分かった、分かった。小言は明日聞く。それよりスガは？」
　まさか「悪い奴に絡まれるまで、離れて見ていた」とは言えないので（それこそ大目玉！）話題を変える神。
「スガちゃんなら、サキさんの『見張り役』をやってくれるそうですから」
「何だ、それは？」
「先生のことは、信じています。信じていますが『万が一』って事も、有りますから」
　サラリと言い放つ美尾。神は、吸い始めたばかりの煙草を、灰皿に押し付ける。
「言っている意味がわからないが？　その言い方だと、私がサキに手を出すとでも……」
「あら、違いました？　そうですね。心配ないですよねぇ。先生ったら『本命』に関しては『オクテ』ですもの」
「美尾！」
　いつもは冷静沈着な神が珍しく顔を赤らめ、ソファからガバッと勢いよく立ち上がった。美尾はクスクス笑いながら
「こんな時間ですし、今夜は仮眠室を使わせていただきます。おやすみなさいませ」
　と、さっさと奥の仮眠室へ消えて行った。
（美尾の奴！）
　神は煙草に手を伸ばして、やめた。ソファに深く座り直し、背もたれに身体を預けて天井を眺め見る。自分自身が考えもしなかったことを、あいつらは普通に考えついたのか？　女の勘か？　と美尾の言葉に深層意識を気づかされた神は、悶々とした気持ちを消すのに苦労した。

　サキが起きたのは、翌朝の10時過ぎだった。

＜終わり＞