Fanfic.】お嬢さん社長の結婚式

　月光の絹～ムーンライト・シルキス～と名付けられた新繊維のヒットにより、倒産を免れた浅野繊維。社長を継いだ時は、まだ高校生だったユミも、社員の協力の元で学業と社長業を両立し、無事に大学を卒業した。

　そして数年。良いムードなのに、多くの社員が望んでいるのに、ちっとも進展しない、ユミと沖田総二の仲を見かねて、世話好き社員が一肌脱ぎ、ついに沖田はユミにプロポーズをした。そうなると早いもので、待ってました、とばかりに結婚式へ向けて、周りの者が盛り上がって話を進めて行った。その中で本人達は冷静に未来を見つめ、一つの結論を出した。二人の新たな門出のために……
「社長、本気ですか。式も沖田くんの婿入りも、反対しません。ただ、あの人を…というのは……」
「社長としての『出発点』だもの。実はね、秘書さんに頼み込んで、今日アポ取ってもらったの。今から二人で行ってくるから」
「お…、沖田くん？」
「二人で決めた事ですから。じゃ、行ってきます」
「社長ーっ！ 沖田くーん！」
　困惑する側近社員を余所に、ユミと沖田は向かいのビルへ出掛けて行った。

「おやおや、明日は大雪かな？ お嬢さんが正式に予約を入れて、わしに会いに来るとはな。しかも二人揃って」
　浅野繊維のライバル会社、信楽繊維。借金の返済が終わっても、社長の信楽老は幾度となく、浅野繊維を潰そうと嫌がらせをしてきた。その度にユミは苦情を言いに乗り込み、追いかけてきた沖田が連れて帰る…事を繰り返してきたので、二人で事前に予約を入れて来訪したことにまず驚き、更に今聞かされた、プライベートに関わる耳を疑うような話に、信楽老は二度、びっくりさせられた。
「おやおや、大雪というより猛吹雪だな。わしが、その役を引き受けると思っているのか？」
　ユミも沖田も、笑顔で「はい」と一言。互いに一人っ子で両親も他界。血縁者もわずか。形式張った結婚式は堅苦しい。そして二人が行き着いたのは、出席者全員を立会人とする人前式にし、代表として信楽老に、祝辞と婚姻届の証人欄に署名をしてもらうことだった。
「後日改めて招待状をお持ちします。お返事はその時に…」

　そして挙式当日。乗せられてやった、といった顔で出席した信楽老は、二人が署名捺印した婚姻届の証人欄の一つに名前を書き込み、簡単な中にも皮肉のこもった祝辞を述べた。 あくまでも社長はユミ。沖田は浅野の姓を名乗り、これまでどおりユミのサポートをする。新たな「対信楽老」の戦いへ向けて、二人は新生活をスタートさせた。

＜ゴールイン＆ネクストスタート＞