Fanfic.】Ｉ ＷＡＮＴ ＹＯＵ……

　ラウラは涼子の部屋のドアを静かに開けた。深い眠りに入っているのか、ピクリとも動かず、小さな寝息を立ててベッドの中に沈んでいた。
（無理もないわね。あんなに、はしゃいで……）
　昼間の結婚式。嬉しさから気持ちが高ぶり、涼子は招待客の間を飛び回っていた。同じ年頃の少女と比べたら何倍もの体力を持っている涼子だが、精神的な疲れもあったのだろう、さすがに心身共にエネルギー切れを起こしたようだ。
　深い眠りで身体を癒している《愛娘》の無垢な寝顔に、ラウラは癒された。自然と口もとが緩み、目を細めて笑みを浮かべる。母親としての最初の仕事は、少しずれていた布団を掛け直してやることだった。少し首を動かしたが、深い眠りは変わらず。一瞬、起こしてしまったかとドキッとしたが、変わらない寝顔の涼子にラウラは安心して、額に軽くキスをして部屋を後にした。

　一生、叶わないとラウラは思っていた。それが当然だと。貴広の過去を知れば、誰も《結婚》の二文字は口にしないだろう。望んでも、夢でしかない《報われない想い》を断ち切ろうとして、結婚を前提に何人かの男と付き合ったりもした。もちろん、肌を重ねた事も幾度か有る。だが、程なく、ラウラの方から別れを告げて終わった。断ち切ろうとすればするほど、心は貴広へと帰結した。

「涼子は？」
「ええ、グッスリ。疲れたんでしょうね」
　夫婦の寝室に戻ってきたラウラは、今日一日分の集まった情報に目を通している貴広をのぞき込んだ。世界は刻一刻と変わる。結婚で浮かれてはいられない。
「私たちより、涼子の方が忙しそうだったからな」
　二人は顔を見合わせて、クスクスと笑った。
「さて、私たちも、そろそろ休むか……？」
　一区切りついた貴広は、目を通していた情報書類の束を軽く揃えると、サイドテーブルに置いて、ラウラを抱き寄せた。
　貴広もまた、一生叶わぬ夢と思っていた。ラウラに《特別な感情》を抱いていても、自分のＤＮＡを残したくないと思っていた貴広にとって、決して《結婚》という二文字は選択できなかった。しかし……
「愛している……私の…ラウラ……」
　胸の奥に鍵をかけ、想いを《封印》したまま生涯を終えるはずだった二人。
「愛してる…愛してるわ、シドー……」
　二人はキスをしたままベッドへ崩れる。長年の秘められた想いが、今夜、堰を切って、一気に解放される。激しく求め合う二人。ベッドが軋む。心が一つに解け合ったように、貴広とラウラは、身体も一つに繋がった。

　淡い月明かりが、要塞島を優しく包み込む。寄せては返す波の音が、静かに響き渡っていた。

＜終わり＞